5-1. DNA合成酵素
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1) 通常のDNA合成用DNAポリメラーゼ
DNAポリメラーゼI(pol I, ポルワン)
大腸菌由来
コーンバーグ(アーサー・コーンバーグ)により、DNAポリメラーゼとして初めて発見されたもの
コーンバーグの酵素ともいわれる
生理的には二本鎖DNAにできたギャップ部分の修復や、ラギング鎖合成の最後の段階で働く
活性
ヌクレオチド重合活性(ポリメラーゼ活性)
DNA鎖を延ばす
3'→5'エキソヌクレアーゼ活性
他のDNAポリメラーゼにもみられる
5'→3'エキソヌクレアーゼ活性
pol Iに特有
酵素が進む前方(=3'側)を削り込むこの活性があるため、単なるDNA合成の目的で使われることは少ない
二本鎖DNAをもとにした5'→3'方向への一本鎖の削り込みや、ニットトランスレーションで使用されることが多い
この活性は岡崎フラグメントにあるプライマーとなったRNAの除去にも使われる
RNaseH活性
ファージ由来酵素
T4ファージやT7ファージのDNAポリメラーゼは通常のDNA重合活性に加えて3'→5'エキソヌクレアーゼ活性をもつ
5'突出末端の3'末端側を修復して平滑化するために使用される
より正確な重合活性をもつ枯草菌ファージ由来phi29DNAポリメラーゼというものもある
シークエンシングやPCRにおけるDNA合成でも様々な酵素が使われる
2) クレノー断片
pol IそのままではDNA合成用の酵素としては使いにくいが、そこからN末端側の5'→3'エキソヌクレアーゼ領域をズブチリシンで切断してクレノー断片(ラージフラグメント)をつくり、DNA合成酵素として使うことができる
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クレノー断片は通常の長い範囲のDNA合成反応(e.g. シークエンシング, ランダムプライマーによるDNA標識)のほか、5'突出末端の平滑化にも使われる
3) 特殊な用途で使われるDNA合成酵素
pol Iによるニックトランスレーション
ニックトランスレーション
pol IはDNA中のニックに結合し、3'側に向かってDNAを削るとともに、削った部分を合成し直しながら進むことができる
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二本鎖DNAの内部が偏りんかう標識されたプローブの作製や、cDNAの二本鎖目の合成(ニックが入ったRNAをプライマーとしてDNA合成を行う)でも使われる
TdTによるホモポリマー合成
TdT(terminal deoxynucleotidyl transferase:末端デオキシヌクレオチジル転移酵素)
鋳型非依存的に、DNAの3'-OH末端(末端形状によらない)にデオキシリボヌクレオチドを1個ずつ付加する酵素
1種類のヌクレオチドをDNAの端に多数付加した後で連結するホモポリマー合成法に使われる
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逆転写酵素によるcDNA合成
逆転写酵素
RNAを鋳型とし、それに相補的なDNA(complementary DNA:cDNA)を合成するRNA依存DNAポリメラーゼ
通常はレトロウイルス由来のものを使う
e.g. マウス白血病ウイルス(MLV), ニワトリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)
レトロウイルスの酵素はDNA重合活性のほかにRNaseH活性があり、ウイルス増殖の過程では、一本鎖cDNA合成後のRNA鋳型分解に働く
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DNA重合は他のポリメラーゼと同様にプライマーの3'-OH末端から起こり、3'方向へ向かう
逆転写酵素にはDNA依存DNAポリメラーゼ活性(DNA鋳型をもとにDNAを合成する)もあるので、試験管内反応で一本鎖cDNAをもとに二本鎖DNAを合成することもできるが、活性が弱いため、実際にはほとんど使われず、他のDNAポリメラーゼを使うことが多い
逆転写酵素はcDNAクローニング、mRNAをもとにしたタンパク質生産、RT-PCR、RNAの塩基配列解析などにとって不可欠な酵素
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Column 逆転写酵素:その発見から不偏性へ
1960年代、動物にがんを起こすRNAウイルスであるレトロウイルスを研究していた研究者は、ウイルス増殖が転写阻害剤により阻止されるという奇妙な現象を見出していた
この説明のためには、どうしてもウイルスDNAを想定しなくてはならない
熾烈な競争の結果、1970年、D.ボルチモアとH.テミンにより、独立にRNAからDNAを合成する逆転写酵素が発見された
この酵素はウイルスRNAが宿主ゲノムに組み込まれるためのDNAをつくるために必須である
当初、逆転写酵素はこのウイルスのみがもつ特殊で例外的な酵素かと思われていた
しかしその後、他のウイルス(e.g. B型肝炎ウイルスやカリフラワーモザイクウイルス)やある種の細菌にも見出され、さらに、真核生物ゲノムがレトロトランスポゾン内遺伝子として逆転写酵素遺伝子をもつことも示された
そして、染色体末端を延ばすテロメラーゼという酵素が逆転写酵素だったという驚きの発見などを経て、現在では逆転写酵素は生物界におけるきわめて重要で普遍的な酵素であると認識されている
逆転写酵素の存在はRNAワールド仮説の根拠の一つにもなっている